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睡眠時無呼吸症候群(SAS)における事故

皆様こんにちは。セミの鳴き声も落ち着き、残暑ですが夜は鈴虫が奏でるくらい涼しさを感じる季節になってきましたね。

今回は皆様にも身近に迫る睡眠時無呼吸症候群の事故をご紹介したいと思います。

 

睡眠不足・睡眠障害としての事故は以前から多くありましたが、その原因が『睡眠時無呼吸症候群である』と診断ができるようになったのは最近のことです。夜更かしのような一時的な睡眠不足とは違い、慢性的な睡眠不足に陥るため、日常生活に支障をきたすという所が怖い病気です。そして自身が加害者になる可能性を持ち合わせているという事を認識出来ず、運転などを用いる仕事を継続してしまうという結果になります。

日本における事故では、2003年2月にJR西日本新幹線で運転士の居眠り事故の発生後、睡眠時無呼吸症候群が一般的に認知し始めました。この事故を皮切りに、これまでの居眠り運転が単なる運転手の不注意の事故だけでなく、障害による事故の可能性が出てきました。他にも2012年4月群馬県の関越自動車道でのツアーバスの運転手の方が睡眠時無呼吸症候群で事故が起こりました。45名が死傷した事故で、道路左側防音壁に直撃し、車体を分断するような大惨事となりました。

 

愛知医科大学病院睡眠科・睡眠医療センターでは、2000年-2008年に運転免許書を取得した睡眠時無呼吸症候群疾患の患者を対象にした居眠り運転事故調査を行い、その結果CPAP療法を行った結果、運転事故が減少した結果が報告されています。その一部を抜粋してご紹介致します。

 

◆AHI重症度と居眠り運転事故率

閉塞性SAS(5≦AHI)と診断された1,867例では207例(11.1%)が過去5年間に居眠り運転事故を経験していた。さらにAHI重症度別の居眠り運転事故の頻度は、軽・中等症群(5≦AHI<30))819例中79例(9.6%)、重症群(30≦AHI<60)643例中63例(9.8%)、最重症群(60≦AHI)405例中65例(16.1%)であった。AHIが60以上の最重症群の事故率は16.1%で、正常群の6.4%(282例中18例)に比べ有意に高率であった。

 

◆ESS重症度と居眠り運転事故率

閉塞性SAS患者におけるESS重症度別の居眠り運転事故の頻度については、正常群(0~10点)1,014例中68例(6.7%)、軽度群(11~15点)548例中70例(12.8%)、重度群(16~24点)305例中69例(22.6%)であり、ESSが高値なほど居眠り運転事故率が有意に高かった。

 

◆CPAP治療導入315例の検討

閉塞性SASと診断されCPAP治療を導入した315例での治療導入前後の比較では、AHIは47.4/hrから3.4/hr、ESSは10.5点から6.2点と改善した。なお、BMIは28.9から28.0とほぼ不変であった。

 

◆CPAP治療前後における日中の眠気

CPAP治療導入前後におけるESSでの日中の眠気の比較では軽度仮眠群の割合は30.2%から10.9%、重度仮眠群の割合は17.1%から4.8%へいずれも減少した。

 

◆CPAP治療後における居眠り事故の減少

CPAP治療導入前1年間に居眠り運転事故を起こしたものは315例中20例(6.3%)であったが、CPAP治療導入後1年間の居眠り運転事故は3例(1.0%)に減少した。

 

簡単にまとめますと

①AHI(無呼吸指数)からみる、居眠り運転事故率:AHI 60以上で事故率16.1%、正常群(AHI 5以下)で事故率6.4%だが、CPAP治療の導入前後のAHI変動:47.4→3.4と減少し、正常群と変わらない無呼吸指数まで下がり、正常群の事故率と同等の可能性が出てきました。

②ESS(眠気自己評価/エプワース眠気尺度)からみる、居眠り運転事故率:重症群(16-24点)で事故率22.6%だが、CPAP治療の導入前後のESS変動:軽度群(30.2%→10.9%)、重症群(17.1%→4.8%)と、AHIの実際の数字だけでなく自身の眠気評価も改善している事がわかりました。

③CPAP治療後における居眠り事故の減少:6.3%→1.0%へと、実際にCPAP治療は事故の減少が確認されました。

 

上記のように睡眠時無呼吸症候群は治療をしっかり行えば、事故を防げる病気であることがわかりました。

この病気は私たち自身が事故に巻き込まれてしまうだけでなく、運転をされる方は多くの人々を危険に晒す可能性も秘めている疾患です。単なる『居眠り運転』で片付けるのではなく、疾患を認知することが大切となります。しかしこの疾患は1人ではなかなか気付く事が難しく、ご家族/ご友人からのいびきのご指摘で初めて症状を知る事が多いです。

ですので、もし身近にいびきをしている方などに気付いたら、是非お声を掛けてあげてください。また、ご自身で判断が難しく不安の場合は、当院で夜間の検査もできますので、お気軽にお問い合わせやご受診くださいませ。

 

皆様のご健康をお祈り申し上げます。

 

◆   参考・引用文献

https://www.iatss.or.jp/common/pdf/publication/iatss-review/35-1-03.pdf

 

※SAS=睡眠時無呼吸症候群

※AHI=無呼吸指数(無呼吸の回数)

※ESS=エプワース眠気尺度(眠気自己評価)